瑛先生とわたし
一年に二回 大学で書道の集中講義をして学生に教えているのよ
瑛先生の大学の先生に頼まれたお仕事だけど 毎週大学に通うのは
大変だから まとめて講義するみたい
大学の近くのホテルに泊まりこみなんだって
そのあいだ 渉は先生のお母さんの家に行ってるの
うるさい渉がいないのはいいけれど 先生に会えないのは寂しいなぁ……
お昼ご飯を食べたあと 先生はまた仕事部屋に入っていった
私もついていって椅子に座って 先生が字を書くところを見てたけど
何枚も何枚も書いては見比べて 気に入らなければ書き直して その繰り返し
私の方なんて ぜーんぜん見てくれないの
つまんなくて ドアの下の 私専用の小さな通路から部屋を抜け出して
林さんがいるリビングに行こうと廊下を歩いてたら
玄関から 私の大好きな人たちの声が聞こえてきた
華音さんと菜々子先生だ
嬉しくて走って玄関に行ったら
「マーヤちゃん こんにちは いつも可愛いわね」 って
ふたりが言ってくれたの
こういうところが大好き 龍之介さんとは大違いだわ
菜々子先生に抱っこされてリビングに入っていくと 林さんがテーブルの上で
紙を広げて一生懸命何か書いていた
「あらあら すみません 気がつきませんで お二人ご一緒でしたか」
「えぇ そこで菜々子に会ったの
玄関にはマーヤちゃんが迎えに来てくれてたのよ それ去年のですか?」
「私にも見せていただけますか……わぁ すごい
これまでのメニューを全部記録してるなんて さすが林さんだわ」
「そんなことはございませんが 書いておきませんと忘れてしまうので
それに おいでになられる方に 前の年とは違う物を
召し上がっていただきたいと思いまして」
菜々子先生と華音さんが感心したように頷いて 林さんはちょっと
照れた顔をしたけど 褒められてとっても嬉しそう
あっ わかった パーティーをするんだ
去年のこと よーく覚えてる
たくさんの人が集まって お料理を食べながら話をして お酒もあって
みんな楽しそうで ツリーも飾ってキラキラして すごく綺麗だったわ
「今年の参加は何人くらいですか?」
「去年は25・6人でしたか 年々参加される方が増えていらっしゃって
今年はもう少し多くなりそうですね」
「女手が欲しいわね 男は飲んでしゃべって 何の役にも立たないもの」
「あら そうでもないわよ 牧村さんも手伝ってくださるみたい
ねっ 林さん」
「えぇ アルコールは任せてくださいとおっしゃって
牧村さんの奥様も来てくださるそうで
お店をなさってるプロの方ですから 心強いですね」
わぁっ と華音さんと菜々子さんが声をあげて すごく嬉しそう
牧村さんもくるのね 奥さんは初めて会うけど どんな人だろう
美味しいお料理を作ってくれる人だってのはわかったわ
わぁ すごく楽しみになってきた