瑛先生とわたし
仕事場の一角に置かれた この部屋には似つかわしくない アンティーク
家具の上に飾られている
妹の写真に向かって オレは話しかけた
この家の いたるところで妹に会える
客間以外の部屋のどこかに藍の写真が飾ってあり 7年前と変わらぬ顔が
いつも微笑んでくれる
こんなに愛されてたんだな
それなのに なんで……
考えても仕方なのないことだとわかっているが やっぱり無念でならないよ
ふたりが知り合うきっかけを作ったのは 言ってみれば俺だったんだから
瑛とは高校に入学して同じクラスになって 前後の席に座ったのが始まりだった
妙にウマが合って いろんな話をしたっけ
家に遊びに来いよ って誘ったら 「ありがとう」 って素直な返事に
感動したもんだ
それまで俺の周りには 「めんどくせーよ」 って返事しかできない
ヤツらばかりいたからな
瑛のように ”普通” に返事のできるヤツが友達になったのは初めてだった
俺と瑛が友達になって一番喜んだのはお袋だった
「類は友を呼ぶっていうでしょう
花房君が龍之介に興味を持ってくれたってことは
アナタにも花房君に近い部分があるからよ
よかったわ いいお友達ができて」
”ほぉ 俺は瑛に選ばれたのか そんなんじゃねーよ”
って そのときはお袋に反論したが 今思えばそうかもしれない
斜めにしか物事を見ようとしない俺に 根気良く正論を語ってくれたのが
瑛だったから
瑛と討論するのが楽しくて 時間も忘れて語り合って
時には ”人生観” なんて 難しい話もしたよ
あの頃 瑛が読んでた本は 俺も片っ端から読んだ
純文学なんて一生縁がないと思ってたが まさか その純文学で泣くことに
なるとは 俺には想定外のできごとだったっけ
想定外の出来事っていえば 藍とのこともそうだった
藍が 俺より数段真面目な瑛に惹かれるのはわかる
だがなぁ あんな大胆な行動にでるとは 俺は今でも信じられないくらいだ
瑛は俺の家によく遊びに来てたから 当然妹にも会うわけで
で あの顔でニッコリと挨拶をするんだ 惚れないほうがどうかしてる
でも 藍の表情はいつも同じで こんにちは っていうのがやっと
瑛に興味があるのかないのか 皆目見当もつかない
俺としては どんなに良い男があらわれても 妹の相手としては気に入らない
だろうと思ってたから 藍の反応に安心してたんだが……