瑛先生とわたし
そして翌日、花房家を訪ねた。
「瑛君、習字のお弟子さんに蒼さんという女の人がいるそうだね」
「お義父さん、彼女を知ってるんですか。あっ、龍之介から聞いたんですね」
「うん、男の子がいるそうだが」
「彼女、ひとりで一生懸命育ててますよ」
「君の目から見て、その……蒼さんはどうだろうか」
「真面目ですし いい子ですよ。事情さえわかってもらえれば
なんの問題もありません」
「そうか、君もそう思っているのか。いや、それなら話は早い」
「お義父さんも賛成してくれるんですか。良かった、心配してたんです」
そうか、そうか、瑛君も蒼さんという人が気に入っているのか。
そうとわかれば膳は急げだ。
これから花房のお母さんを訪ねて話をするか。
瑛君からは言いにくいだろう。
ここは俺がひと肌脱ごうじゃないか。
それに……
俺たちが勧めた相手なら、渉と会えなくなることもないだろう。
藍、いいだろう?
おまえなら、わかってくれるよな……
”長谷川のおじいちゃん どんな頼みごとだったの?”
「マーヤ、長谷川のお父さん、龍之介のこと わかってくれたみたいだ」
”龍之介さんのこと? あっ、蒼さんと龍之介さんね”
「あいつ、さっそくお父さんに話をしたんだな。
蒼さんの事情もわかってるということは
蒼さんも龍之介に、お姉さんの紅さんのことを話したんだね」
”そうなの? それでどうなるの?”
「長谷川のお父さんは乗り気だ。
あの人さえ説得できれば、あとは問題ないよ」
”問題ないの? 龍之介さんと蒼さん。うん、いいかも!”
なんだか嬉しくなって、わたしは飛び跳ねて首の鈴を鳴らした。
「マーヤも喜んでくれるんだね」
”うん、喜んじゃう”
「そうなると、早く瑠璃さんの誤解を解いたほうがいいが……
彼女もわかってくれるだろう。それより龍之介と蒼さんだね」
そうそう、深澤さんのことより、龍之介さんと蒼さんよ。
二人が仲良くなったら、龍之介さんは瑛先生を誘わなくなるわね。
わーい、瑛先生と私、もっともっと仲良くできるわ。