瑛先生とわたし


ふたりの交際が始まったのは 藍の受験が済んでからだった

大学に入っても交際は続いて 藍の大学卒業後 すぐに結婚する約束を

してたようだ

でも 俺のオヤジが反対した

書道なんて 収入の不安定な男に娘は任せられない 

これってものを見せてみろって

瑛はその二年後の秋 書道界の新人の大きな賞を獲得した

オヤジも瑛の力を認めざるを得なくなって お袋に説得されてふたりの結婚を

許した


けど 今は反対したこと オヤジは後悔してるらしい

こんなに早く 藍が俺たちの前から姿を消すことになるんだったら 

もっと早く認めてやれば良かったって……


でも俺は思う 初恋の相手と一緒になれたんだ

藍の人生は悪くなかったってね






「マーヤ 今夜はでかけるから 留守番を頼むよ」


”あら どこにいくの?”


「龍之介と一緒に たまには外で飲もうと思ってね」


”合コンじゃないのね”


「あとのことは お手伝いのさんの林さんに頼んでおくから 

今夜は留守番を頼むよ」



仕方ないわね 今夜は私が家を守るわ


サッカーから帰ってきた渉とバロンを 車の後ろに乗せている

途中 一人と一匹を預けるために 龍之介さんの実家に寄るんだって


飲みに行くのに車なのよね……

帰りは代行を頼むからって 龍之介さんはタクシーには乗らない先生の気持ちを

ちゃんとわかってる


大きな車に乗って出かけていく男ふたりを 仕事場の出窓から見送った

出窓にいる私に 瑛先生が手を振ってくれた






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