瑛先生とわたし

7 華音と菜々子の作戦会議



「こんにちは。マーヤちゃん どこかな?」



あっ、華音さんだ。

はーい! と返事の代りに、首の鈴を鳴らしながら玄関に行った。

菜々子先生も一緒だったのね。

いらっしゃい、と首を振って鈴を鳴らすと 「今日も可愛いわよ」 とふたり

が言ってくれたの。

褒めてもらって嬉しくて、かわいらしく首を傾げてみたけれど、わかってもら

えたかな。


華音さんは瑛先生のお姉さん、花房のオウチにやってくると、瑛先生にいろい

ろ指図してちょっと偉そうにしてる。

ときどきここでお母さんの弥生先生にも会うけど、そのときも 

「お母さん、だめでしょう。ほらしっかりして」 なんて言ってる。

華音は小言ばかりね、と菜々子先生に言われて、ぷぅーっと頬が膨れることも

あるけれど、ふたりは仲良しなんだって。


わたしを抱き上げた華音さんは、ほっぺたをすりすりしてから背中を撫でて、

それから、「マーヤちゃんにプレゼントよ」 と言って、ピンクの袋を振っ

たの。

チリン チリン といい音がする。



”わかった 新しい首輪ね”


「プレートに ”マーヤ” ってお名前を入れてもらったのよ」



プレートってなんだろう。

わたしにはよくわからないけれど、きっといいものなのね。

「つけてあげるわね。ちょっと待ってて……菜々子 おねがい」 と言いな

がら、わたしは華音さんの腕から菜々子先生の腕に渡った。

菜々子先生は 『一色動物病院』 のお医者さんで、華音さんのお友達。

華音さんの抱っこも好きだけど、菜々子先生の抱っこはもっと好き。

獣医さんだからかな、体のどこを撫でたら気持ち良いのか知ってるのね、

ふにゃん、となっちゃうくらい気持ちいい。

でも、瑛先生の抱っこは、もっともっと好きだけど。


菜々子先生に撫でてもらってとろとろな気分になったところで 

「さぁ、できたわ。とっても似合ってる、可愛い~!」 と華音さんの大きな

声がした。

ホント? そんなに可愛い?

菜々子先生の腕から ピョン と飛び降りて、ガラスに姿を映して、尻尾の先

まで気取って足を伸ばしてちょっとおすまし。

わっ、いい感じ!


向きを変えながらガラスの前でポーズをしていたら、リビングに蒼さんが入っ

てきた。

お稽古が終わったのね、透くんを引き取りに来たみたい。

けど、あれ? ここにはいないわね。

蒼さん、透くんを探すような目をしてたけど、そこにいた華音さんと菜々子先

生に 「こんにちは」 と挨拶をした。



「こんにちは、瑛の姉です。こっちは私の友人」


「一色です。はじめまして」


「こんにちは、はじめまして。花井蒼です。

先生のもとに先月入門したばかりです。

お稽古のあいだ子どもも預かっていただいて、大変お世話になっています」


「お子さんと一緒にお稽古なんて、感心だわ。頑張ってね」


「ありがとうございます」



こういうのを自己紹介って言うのね。

それから三人でお話が始まったわ。



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