瑛先生とわたし


「お子さんはおいくつ?」 


「もうすぐ一歳です」


「お住まいは近くかしら?」


「はい」


「ということは、こちらのご出身? 

もしかしたら、小学校は私たちの後輩?」


「いいえ、実家は地方です。姉と住んでいますので」 
  

「お姉さまと……まぁ、では、お子さんをお一人で育てていらっしゃるのね」


「はい……」



華音さんが次の質問をしようとしたら、赤ちゃんをあやす声が聞こえてきて、

瑛先生が透くんを抱っこして部屋に入ってきた。

透ちゃんが起きたら泣いて、先生があやしてくださったんですよ、と言いな

がらあとから林さんも入ってきた。

先生は華音さんと菜々子先生を見て、やぁ、と言っただけ。



「ありがとうございます、お世話になりました」



先生の腕から蒼さんが透くんを受け取って、二人で透くんの顔を覗き込んで

いる。

そこへ深澤さんがやってきたものだから、わたしは急いで菜々子先生の後ろに

隠れた。

猫アレルギーの深澤さんは、わたしが近くにいるとくしゃみが出るの。

これでも気を使ってるんだから。

菜々子先生のうしろから、そーっと見ると、瑛先生と蒼さんを見て深澤さんが

ビミョウな顔をしてる。

先生と蒼さんが仲良くしてるのが気になるんだと思う。

わたしも嬉しくないけど……

なんて思ってたら、華音さんがこんなことを言い出した。



「そうしてると、瑛と花井さん、新婚さんみたいね」


「姉さん、彼女に失礼だよ」


「そうかな」


「そうだよ」


「あら、ごめんなさい」


「そんなんじゃ、謝ってるように聞こえないよ」


「じゃぁ、どういえばいいのよ」



いつもの瑛先生は言い返したりしないのに、華音さんとケンカしてるみたいに

聞こえる。

どうしたのかな。

このビミョウな空気を破ったのは菜々子先生。



「そろそろ行きましょうか」


「そうね。瑠璃ちゃん、準備はいい?」
 

「はっ、はい」



華音さんが深澤さんを ”瑠璃ちゃん” と呼んだから、ちょっとびっくり。

瑛先生も えっ? って顔をして、そのままの顔で華音さんに聞いたわ。



「三人で出かけるの?」


「そっ、これから女子会なの。そうだ、花井さんもいかが?」


「えっ、あの、私は子どもがいるので。

せっかく誘っていただいたのにすみません」


「そう、残念だわ。またね」


「はい……」



返事をした蒼さんはうつむいちゃった。

断ったから気になったのかな。

またビミョウな雰囲気になったけど、華音さんが 「今度は 林さんも一緒に

どうですか」

と言い出して 「まぁ嬉しい。ぜひ」 と明るい声がして、ちょっと雰囲気が

良くなった。



「瑛、瑠璃ちゃんを借りるわね」


「借りるって。姉さん。あのさ……

まぁいいや。それよりふたりとも底なしなんだから、

彼女に飲ませすぎないでよ」


「はいはい、じゃぁね~」


「マーヤちゃん、バイバイ」



華音さんと菜々子先生が手を振ってくれたから、私も尻尾を振ってさよならし

たの。

深澤さん、お部屋を出るとき瑛先生の方をチラッと振り向いたけど、

気になることでもあったのかな。



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