瑛先生とわたし


「まずは乾杯ね。おつかれさま~!」


「おつかれさま」


「おつかれさまです」



牧村さんオススメのビール、美味しいわね。

ジョッキをぐっとあおると、喉の渇きが一気におさまった。

時間が早いせいか、店内は私たち三人だけ。

つまみというにはかなり豪華な盛り合わせをテーブルにおいた牧村さんが

「どうぞごゆっくり」 と告げてカウンターから奥に消えた。



「さぁ、誰もいないわよ。瑠璃ちゃん、さぁ、何でも話して」


「いえ、でも、あの……」


「華音、そんなにせかさないの。

話せと言われて、はいそうですか、と話せるものじゃないでしょう」


「そお?」


「そうよ」


「ふんっ」


「まずは飲んで、食べて。話はそれからでいいわよ」



菜々子が、ビールの次はワインね、と言いながら、これも牧村さんオススメの

ボトルをグラスに傾ける。

差しつ差されつする私と菜々子を見ていた瑠璃ちゃんが、いいですね、と感心

したようにつぶやいた。



「本当におふたりは仲がいいんですね」


「そうね、長い付き合いだもの」


「そうそう」


「ほら、あなたも飲むのよ」



菜々子が瑠璃ちゃんのグラスにワインを注ぐと、くっと飲み干した。

あぁ、美味しい……と言いつつ、もう頬を染めている。

瑛が言うように気をつけながら、ゆっくり飲ませなくちゃ。

彼女、お酒が弱いわけじゃないけれど、勧められると断れなくて飲みすぎてし

まうみたい。


昨年末、瑛の家で開かれたホームパーティーでも、勧められるまま飲む瑠璃

ちゃんを見て瑛が心配していた。

「彼女が飲み過ぎないように、気をつけてやってよ」 と弟に言われたことも

あり、女の子に酒を勧めたがるおじさんたちから、 菜々子とふたりで彼女を

守ったわ。

そんなことから親しくなって、年明け 「新年会」 と称して、また集

まった。

私や菜々子より歳はいくつも下だけど、彼女には私たちと通じるものが

あった。

キャリアを目指す姿勢もそうだし、男に負けるものかという気概もある。

それでいて、年上の私たちへの気遣いもできて、自分の意見がちゃんと言える

子でなにより美人。

これは大事なこと。

美人と言うのは、顔がきれいだけじゃだめ。

仕事もおしゃれにも気を抜かない気構えがあって、頭も良くなくちゃね。

瑠璃ちゃんは、それがすべてできている。



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