瑛先生とわたし


両親が離婚して、母さんもそれなりに頑張ってて、でも、本当は父さんと別れ

たくなくて気持ちが落ち着かずもやもやしてたとき、 瑛おじさんがオレの話

を聞いてくれた。

父さんと母さんがもう一度結婚できたのも、おじさんのおかげだ。

渉のお母さんが亡くなって独身になって、いろんな人が再婚するようにすすめ

るけど、おじさんには全然その気がなくて、全部断ってるって母さんが

言ってた。

なのに、瑠璃さんが事故にあった日、それまでどんなことがあっても乗らな

かったタクシーを走らせて病院に行ったらしい。

それを知った母さんは、「瑛もそうだったのね」 と興奮してた。

瑛もってことは、瑠璃さんも瑛おじさんが好きなのか……

両想いってことだよな。



「おじさんと瑠璃さん、結婚すんのかな」


「えっ?」


「毎日見舞いに行ってるんだろう? それってそういうことだよな」


「そういうことって?」


「だから、結婚するかもって。母さんも言ってたし」


「あれ? 一樹、華音おばちゃんのことママって言ってたのに」


「中学なのに ママ とかって恥ずかしいだろう」



はぁ? 気にするのはそこ? 違うだろう! と一人で突っ込みながら、

さらに渉に聞いた。



「瑠璃さんとおじさん、結婚するのかな」


「知らない」


「そうなったらさ、渉にも兄弟が生まれるかもな」


「わけわかんない」



わっ、渉、泣きそうになってる。

このへんでやめるか。

オレも兄弟とか生まれたら、いろいろ言われるんだろうな。

渉も瑛おじさんが結婚したら……

あの瑠璃さんが授業参観に来るのかな。

わぁ、マジ羨ましい。

オレの母さんと代えて欲しいと思うよ。



「まぁ、そうなる前に渉に言うはずだから、あまり気にするな」


「一樹のバカッ」



顔を真っ赤にさせて怒鳴ると、部屋を飛び出していった。

わっ、言い過ぎた。

渉、ばあちゃんに言いにいったんだろう。

オレ、弥生ばあちゃんに叱られるな。

こんなつもりじゃなかったのに、調子に乗りすぎた。

オレ的には、瑛おじさんと瑠璃さんはいいカンジだと思うけど、渉は新しい

母親ってのは複雑だろうし、もしそうなったらオレが相談にのってやるか。


けど、おじさん、本当はどうなのかな。

母さんは 「瑠璃ちゃんを応援するわ」 とかって言ってるけど、応援したか

らどうなるわけでもないと思う。

父さんと母さんが再婚する前、おじさんがこんなこと言ってたな。


『気持ちを言葉にすれば、相手に想いは伝わるよ』


無口な父さんが、「もう一度結婚しよう」 と言ってくれたのが嬉しかっ

たって、母さんが言ってたな。

息子に言うことか? と思ったけど、母さんは父さんの言葉が嬉しかった

から、素直になれたんだと思う。

瑛おじさんだったら、好きな相手になんて言うのかな。

なんか、すごく良いことを言いそうだ。

それがわかったら、おじさんの真似をして、あの子に告白できるのに……

朝の教室で、毎日 ”おはよう” と言ってくれる女の子の顔を思い出し

たら、胸が急に騒がしくなった。

うわぁっ、なんか顔も熱くなってきた。

気を散らそうとして屈伸をしていたら 「新しい体操かしら?」 と弥生ばあ

ちゃんの声がして、オレはあわてて部屋を飛び出した。



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