瑛先生とわたし

10 花房瑛のそれから (終) 


入学式の朝、ちょっと大きな中学校の制服を着た渉と瑛先生を見送ったのも

ここだったわね。

それから毎日、お気に入りの出窓から渉が登校するのを見てきたけど、二年生

になったら、大きかった制服がいつのまにかぴったりになっていたの。

そして、また春が来て、夏になって、「小学生の教室の子どもたちからもらっ

た種を植えたら、おっきなヒマワリが咲いたよ」

そう先生が教えてくれたころ、渉はもっと大きくなったわ。

袖が短くてカッコ悪いなんて文句を言ってる声も低くなって、もう小さな渉

じゃない。



「卒業まで半年ですけど、買い換えてもよろしいでしょうね。

もったいなくはありませんよ。成長の証ですもの」 




林さんが嬉しそうに渉を見上げた。



みんな大きくなったわね。

渉は瑛先生に追いつきそうだし、一樹の妹のマリンちゃんはもうすぐ3歳。

花房のおうちにやってくると、ウチの子たちを追いかけて走り回ってもう

大変。

ウチの子っていうのはね……


わたしもママになったのよ。

5匹の子どもたちがいるけれど、みんな一緒に花房のおうちにいるの。

パパはね、うふふっ……ソージなの。

花房のおうちに来た頃のソージは、おとなしくてちょっと頼りないカンジ

だったけれど、お外では強かったみたい。

ときどき傷を負って帰ってきて、それが素敵に見えたわ。

ソージを見た人はみんな 「カッコいい猫ちゃんね」 と言ってくれるのよ。

そうね、ソージは美猫だもの。

気がつくとわたしのそばにいて、それでなんとなく……


わたしが子猫を産むとき、瑛先生はすごく心配して 「菜々子さん、マーヤは

大丈夫かな」 と何度も聞いて、菜々子先生に 「瑛君、少し落ち着きなさい」 
って怒られちゃったくらい。

元気に生まれてきた子猫を見た先生は、わたしをいっぱい褒めてくれた。

頑張ったなって言いながら、目を真っ赤していたわ。 

それからすぐ三木工務店の三木さんが、子猫を譲ってほしいと言ってきた

けど、「この子たちはみんなウチの子です」 と先生が断っちゃった。

だからみんな一緒にいられるの。



あっ、あの音、三木さんの車だ、隠れなきゃ。

花房のおうちは増築中、お部屋が増えるんだって。

三木工務店に頼んだから、三木さんは毎日やってくる。

猫好きで、とっていい人なんだけど困ったことを言い出すから逃げたいんだ

けど……

なのに、いつも見つかって三木さんの腕に抱っこされちゃうの。


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