やさぐれ女の純情
穏やかな声で肯定した清久が遠ざかり、ベッドに入る。
その音が止むと、二人が動かなくなったその部屋から音が消えた。
完全とも思える静寂は重く、息苦しい。
訳もなく、この静寂を侵してはいけないという思いに駆られた咲樹は
呼吸すらままならなくなるほど全身を硬直させ、音を立てないよう努める。
そんな金縛り状態の咲樹を救ったのは、清久が寝返りをうつ音だった。
「……ところで千駄、あんなこと二度とするなよ?」
訳の分からない金縛りから解放された咲樹は大きく息を吸い、
声のする方へ寝返りをうつ。
「何のこと?」
「あんな声で電話してきて、通話にしたまま放置するなんて二度とするな」
いつもより少し低めの声が心地良い。
「んふふっ、そんなに心配だっ――」
「それはないね」
「…………」
「ところで千駄、謝罪と寝る前の挨拶がまだだけど?」
本当に、ほんと~に、むかつく。
その思いをありったけ込めおやすみの挨拶だけをした咲樹は、
また静寂に包まれた部屋であっという間に深い眠りに落ちていった。