雪幻の墓標

「誕生日、おめでとう」

 いつもは簡素な部屋を頼むのだが今日ばかりはスイートルームを選んだ。
 料理が盛り付けられたテーブルの向こうにはドレスを着たエフィが居る。

 18の誕生日の祝い酒であるデュレマニをエフィのグラスに注ぎ、自分のグラスにも注ぐ。

 酒類は成長するにつれて段階的に解禁されていく。
 16の誕生日に世に言う弱い酒が飲めるようになり、22歳になると大抵の酒が許される。

 中には、65歳になって初めて飲むことを許される酒も存在するが。

 二人とも無言に近かった。
 時折、リヴェズが酒や料理を勧める声がしたのみだ。

 やがて一通り食事が終わると、リヴェズがエフィの足元に膝をついた。

 懐から対になった指輪の入った箱を出すと、片方を優雅な仕草でエフィの左手の薬指に嵌める。

 約束していた。
 エフィが18になったら結婚すると。

 震える手で大きな指輪を受け取ると、緊張気味にリヴェズの左手の薬指に嵌める。

 と、急に身体が浮いた。

 気が付けばエフィは、ベッドの上でリヴェズに組み敷かれていた。

「大丈夫。優しくするよ」

 言ってエフィのドレスの胸紐に手をかけはじめる。
 だが、解き終わるころにはリヴェズに襲う気は失せていた。

 エフィが――泣き出したのだ。

「ご、ごめんね。
 大丈夫だよ、やめたから、ね? ね?」
 暫く泣きやんでくれそうになかった。


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