雪幻の墓標
第2章


 ――なんで俺が妹の新婚旅行に……!

 旅立ってからしばらくして、ようやく事態が呑み込めたウォルトは、リヴェズの後ろでエフィに手を繋がれて歩きながら悶々としていた。

 ――結婚したばっかなんだろ! 俺が居て邪魔にならねぇのか!

「……お兄ちゃん? どうしたの?」
 不意にエフィに顔を覗き込まれ、一瞬息を飲む。

「な、なんでもねぇ。
 それよりエフィ、リヴェズと手を繋いだらどうだ?

 旦那が目の前に居るのに他の男と手ぇ繋ぐことないだろ?」

 目を逸らしながら言った言葉に、エフィはにっこり笑って、
「お兄ちゃんだからいいの」

「そうそう。お義兄ちゃんだからいいよ」
 前を歩くリヴェズも振り返りながら笑顔で言う。
「エフィ、たっぷり甘えるんだよ」

 ウォルトはまた、エフィから視線を逸らせた。

 四年半会わない間に、ずいぶんと女性らしくなったものだ。
 今触れている手の柔らかさ、全体的に丸みを帯びた身体つき、艶やかでふわふわとした長い髪……どれも、村で病魔に侵されていた頃には想像もつかなかった。

 ――大事にしてくれてるんだな……。

 と、気づいた。
 街道になっているとはいえ街中のように石畳で舗装されているわけでもないのに、エフィは街中で履くような可愛らしい靴を履いている。
 服装も旅姿とは思えないスカート姿だ。

「……エフィ?
 いつもそんな恰好で旅してんのか?」

 エフィは一瞬きょとんとし、合点がいったように、
「リヴェズが動きやすくしてくれてるの」

「僕の術でエフィを守っているからね。
 実はそのまま川の上も歩けるよ」

 リヴェズがそう言うや否や、ウォルトの身体も軽くなる。
「をわっ!」

「歩きやすくなったでしょ? お義兄ちゃん」

 と、リヴェズが足を止める。
「……?」
「ちょっとここで待ってて。動かないでね」

 ふわっと、何かがエフィとウォルトを包んだ。

 街道から外れて茂みに一人入っていくリヴェズを見送って、何があったのかエフィに目で問う。

「きっと美味しいものを見つけたんだよ」
「……狩りか?」

 ややあって、

 魔獣の断末魔のような、恐ろしげな悲鳴が聞こえてきた。

 エフィは嬉しそうだ。

 がさがさと茂みが揺れ、リヴェズが出てくる。

 これは……もしかしたら、バイロウより凶悪視されている……
「活きのいいスガビルがいたよ。晩御飯に食べよう」

 狼をグロテスクにしたようなその外見の魔物を誇らしげに見せつけるリヴェズに、エフィは喜び、ウォルトは呻いた。


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