雪幻の墓標


「お兄ちゃん、あんまりスガビル食べてなかったね。
 バイロウも残してたし、お肉嫌いになっちゃったのかなぁ?」

 この村には宿屋が2軒あったが、各部屋に内湯がついているのが1軒だったためにそちらを選んだ。
 その浴室である。

 エフィとしては、せっかくリヴェズが作ってくれた料理を残されたのがひっかかるらしい。

「んー。お義兄ちゃんはね、多分牛とか豚とか羊なら食べるんだろうけど……」
 実際、リヴェズの料理を美味しそうに食べるのは今ではエフィぐらいだ。
 他の人間は、材料を言わなければ食べてくれるが。

「さ、次は髪だよ」

 言われてエフィは嬉しそうにリヴェズに背中を向けた。
 リヴェズの指がエフィの頭皮を優しく力強くマッサージし、丁寧に髪を洗い始める。

 エフィはそのまま目を閉じて幸福感に浸っていた。
 何をしてもらうよりも、こうしてリヴェズに髪を洗ってもらえるのが嬉しくてたまらない。

 一度泡を落としてから、
「いいトリートメントが手に入ったから使ってみようね。
 こんな香りだよ」

 そう言ってリヴェズがトリートメントの容器を目の前に持ってきてくれるが、正直どんな香りか分からない。

 服を脱ぐとリヴェズの匂いが強くなり、エフィはその匂いに酔うからだ。

 しかし、リヴェズが良いと言うのだから良いのだろう。
 エフィは頷いた。

「こ~ら、まだ終わってないんだから、そんなにぴったりくっついちゃダメだよ。
 あ・と・で」

 エフィとしては仕方がない。リヴェズの匂いをもっと吸い込みたいのだ。
 リヴェズもそれは分かっていた。

「ほら、お風呂から出たら、たっぷり……ね?」
「……うん」


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