雪幻の墓標
「……で、旅の生計はどうやって立ててんだ?」
朝、食堂で顔を合わせるなりウォルトはもっともな質問をした。
無論、朝食は宿のものを確保済みである。
「主に魔物退治で稼いでるよ。時々病気の治療もする」
昨日のスガビルの残りであろう肉の使われたサラダを食べながらリヴェズが答える。
「人間じゃ太刀打ちできない魔物がそこらじゅうにいるだろう?
やっつけるだけでかなりの収入になるよ。食材も入るし」
最後の一言は聞かなかったことにした。
「でもね、ないとこからは取らないよ」
フォローするように、エフィが言う。
こちらも例の肉をパンに挟んでいる。
「大きな町では魔物に懸賞金がかかってるの。
それがほとんど」
「ああ、お義兄ちゃん、これ」
リヴェズが出してきたのは小さな袋だ。
重い音がする。
「要らねぇ」
何が入っているか考えるまでもない。ウォルトは押し戻した。
「そういうわけにもいかないでしょ。
お義兄ちゃん、身銭だけで出てきちゃったし。
無理矢理同行してもらうんだから、生活の面倒は見るよ。
食の好みもあるみたいだし、すぐになくなっちゃうよ?」
確かに、身銭がなくなったらリヴェズの料理を食べることになるかもしれない。
「…………わかったよ。あんがと」
おとなしく袋を懐に納めた。
「……で、旅の目的地とかあるわけ?
俺はどこまで引っ張り回されるんだ?」
これももっともな疑問である。
リヴェズは当てもない旅だと言っていた。となると、半永久的にこの新婚夫婦に同行しなくてはいけないのだろうか。
「うん、エフィが僕の故郷に行ってみたいって言うから、とりあえずそこへ行くよ。
それが終わったらお義兄ちゃんを送り届けてあげるよ。
大丈夫、棟梁さんにもそういうことで話してあるし」
内心ほっとした。
自分はあの町に帰ることができるのだ。
「故郷って、どんな秘境?」
「う~ん、雪山の最果て……って言えばいいかな。
人間はまず行けない場所だよ」
リヴェズが地図を出す。
この辺りの地図ではなく、もっと広範囲のもののようだ。
「ここが今居る場所。
で、このルートでこう迂回してこっちに入る」
リヴェズが指したのは、地図の空白地帯だ。
つまり――地図に載らない――誰も行けない場所ということだ。
「ここを迂回すんのは?
通れないのか? この国」
地図にはしっかりと国の名前があり、別段迂回するようには見えない。
危ない国なのだろうか。
「いや、それは……」
「苦手な人がいるんだって」
無邪気なエフィの言葉に、リヴェズが困ったような顔をする。
「うん、まあそういうこと」
「…………?」
触れてほしくないことのように思えて、ウォルトは最後の質問に移った。
「……で。
リヴェズは一体何なんだ?」
「君の義弟」
間髪入れずに答えたリヴェズに、
「いや、人間じゃないなら何なんだ?」
疲れを感じながら問うてみる。
「う~ん、僕の故郷に来れば分かるよ。
大丈夫。人間を襲うようなのはいないから」
道中に人間を襲う魔物がいないという意味だろうか。
それとも、リヴェズの故郷の仲間が人間を襲わないという意味だろうか。
「……大丈夫なのか?」
エフィに訊くと、彼女はにっこり微笑んだ。
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