雪幻の墓標


 5日後、別の町に居た。
 例によっていかがわしいプレートがドアノブから下がっているが、もはや慣れたウォルトはドアを叩く。

「どうぞ」

「朝飯は……」
 言いながら入ると、エフィはまだ寝ていた。

「ご飯はいいよ。
 あ、エフィの分だけ運んでくれるように宿の人に頼んでくれるかな。

 明後日まではここから動かないから」

 どうも様子がおかしい。
 エフィの表情は見えず、リヴェズは枕元に椅子を持ってきて座っている。

「……何かあったのか?」
「うん。エフィが動けなくてね」

「……え?」

 慌ててエフィの顔を覗き込むと、何やら苦しそうだ。

「おい? どうした?
 何があったんだよ?」

「……おにい……ちゃん……」

 ウォルトはリヴェズを振り返った。
「病気なのか?
 治せないのか?」

 リヴェズは曖昧な笑みを浮かべ、
「病気じゃないよ。
 治せない」

「……?」
 意味不明な言葉にエフィに目をやり、
「苦しそうじゃねーか!
 治せないってそんなに悪いのか?

 病気は治ったんじゃ……」

「お義兄ちゃん、落ち着いて」
 リヴェズは小さな声でエフィに了解を取ると、
「いいかい、エフィは健康な女の子なんだ。
 分かるかい?」

「いやだって、病気が……」

「病気じゃないよ。
 見てごらん、血色がいいだろう。

 君は女の子の身体のことは分からないかな?」

 そこまで言われて、ようやく思い当った。
 追い打ちをかけるように、

「……エフィは生理が重いんだよ」

 リヴェズが穏やかな声で事実を言う。

「あ、あの、その……
 エフィ、ごめんな!」

「……純情だねぇ」
 慌てて部屋を飛び出したウォルトの耳には、リヴェズの呟きは届かなかった。


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