雪幻の墓標


「確かに、全然寒くねーな……」
 周りは銀世界である。
 確かに険しい道ではなかったが、時折すれ違う旅人たちは皆、寒さに悪戦苦闘しているようだ。

「雪、触れないんだ……」
 リヴェズの結界で中と外を隔てられているので、直接雪に触れられない。
 それを不満そうにエフィがこぼした。

「エフィ、ほら、こっちへおいで」
 リヴェズが手招きするとエフィは嬉しそうに駆け寄ってリヴェズの腕にしがみついた。

「……匂いがあんまりしない」
「宿に着いたら脱いであげるから。機嫌直して」

 ……と。
 急に辺りが寒くなった気がする。

「……なんか、冷えたな……」
 言いつつリヴェズの顔を覗き込むと、顔面蒼白だ。

「おい! どっか悪いのか!?」
「……逃げる」
「……え?」

 エフィを小脇に抱え、ウォルトの手を引っ張ってどこかへ行こうとしたようだが、雪に足を取られて転んでしまった。

「どうしたんだよ!? おい!」

 と、どこからともなくばらばらと兵士が出て来て3人を囲む。
 そして――

「御久しぶりですこと。リヴェ様」
 黒い露出度の高い扇情的なドレスに身を包んだ長身の若い女が現れた。

 ウォルトはその女性とリヴェズを見比べた。男女間の違いはあるものの、そっくりである。

「……ノイさん。
 僕の……娘さん」

 せめてエフィが寒くないよう懐に抱き締めながら、リヴェズは観念したように呟いた。


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