雪幻の墓標

「俺、回復術師初めて見た!」

 一緒に並んで歩きながら、先程の木刀の一件を見事に忘れた様子で少年――ウォルトと名乗った――が興奮して言う。

「顔の傷も消えたし、エフィも治しちゃったし、すげー!」

 木刀の件は忘れたのではなく、悪いことではなかったと思ったらしい。

「回復術専門ってわけじゃないんだけどね」

 長い黒髪に端正な顔立ち。年の頃は20代後半か。長身で体格も良い。
 腕の中の短い栗色の髪の愛らしい少女は、すやすやと眠っている。

「……で、聞かせてもらえる?
 なんであんなところにこんな病気の子を連れて来てたの? 大人の人は?」

 笑顔で、しかし逃げ場のない口調で問われると、ウォルトが怯む。

 暫し、木漏れ日の注ぐ森の中に2人分の足音だけが響いた。

「……聞かせてもらえる?」

 リヴェズの笑顔は段々と洒落にならなくなっていた。
 いよいよ逃げはないと悟り、ウォルトが罰が悪そうに口を開く。

「……景色が、キレイだったから……」
「……ふうん?」

――理由になっていないよ?
 暗にリヴェズがそう促す。

「その……エフィはあんまり外に出られなくて……」
「この病状じゃあ、そうだろうね?」

「……気分転換にって……」
「……うん?」

「黙って連れてきましたごめんなさいっ!」

「それはこの子に言うんだね。
 あと、親にも謝るんだよ?」

 意外にあっさりそう言う頃には既に村の入り口が見えていた。

 ――拳骨で済むかな……?
 黒く短く刈られた髪の少年はそう希望を抱いたが、無論それで済む筈はなかった。


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