雪幻の墓標
リヴェズがエフィの両親を説得して彼女をこの治療院に入れて4ヶ月が経っていた。
当初は半年の予定だった彼女の治療も順調に進み、もう見通しが立ったのだ。
「お父さんとお母さんにはもう手紙を出したから、返事が来たら出発しよう。
誕生日のお祝い、村でできるね」
「あの……リヴェズ……」
夏の終わりが近くなってきたのか、陽射しは少し柔らかくなった。
それでも花は咲き蝶は舞う庭先を先に歩くリヴェズにエフィは恐る恐る声をかけた。
「誕生日が終わったら……もう居なくなっちゃうの?」
リヴェズが立ち止まりこちらを振り返る。
彼が風上に立つと、あの安心できる匂いが風に流されてきていた。
「永遠に会えないってわけじゃないよ。
毎年、少なくとも誕生日には会いに行くし、18になったら約束通り……ね?」
言いながらエフィとの距離を大胆につめ、ついにはその大きな身体でふわりと抱き込む。
エフィの鼻孔を、あの優しい匂いが満たす。
「……大丈夫。君に他に好きな男ができたら、僕は身を引くよ。治療費のことは心配しなくていい……って、これじゃ圧力かな? ごめんね」
「……引かないで」
「え?」
腕の中のエフィの顔を見ると、今にも泣き出しそうな瞳で彼を見つめていた。
リヴェズの服を握る手が震えている。
「18までなんて待たないで。私はリヴェズがいい。
お願い……このまま……」
「……エフィ……」
すっと身体を離し、エフィの両肩に手を置いて優しく目を見つめる。
「君は今、冷静になれてない」
エフィの目が大きく見開かれる。
右手をエフィの頬に当て、
「今の君は状況に流されているだけだよ。
恋なんてしたことがないから、恋だと勘違いしてる。
例えば……そうだなぁ、君がお兄ちゃんを好きっていう気持ちと僕を好きだっていう気持ち、どう違うか説明できる?」
「…………っ!」
黙り込んだエフィから離れると、
「でも、僕は君が好きだよ。
だから、僕は君の準備ができるのを待ってる。
僕に本当に恋をしてくれたら、その時は遠慮なく君を攫っていく。
これから色んな人に会って沢山のものを見て、大人になるといい」
ふとリヴェズがエフィから視線を外す。ちょうど小鳥が1羽木立から飛び去った。
「……はい、この話はここまで。
市場に行こう。退院祝いと誕生日のお祝いに何か買ってあげるよ」
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