お腹が空いたらお家に帰る
「いっただきまーす!」
食卓に並ぶ色とりどりのおかずに待ってましたと香苗の胸が躍る。
鶏のから揚げ、シーザーサラダ、オニオングラタンスープなどなど。
香苗の好きなメニューのオンパレードである。取り皿に次から次へとおかずをのせていく。
その姿をダイニングテーブルの反対側の席から見ていた光也が慌てて制する。
「香苗さん!ご飯は逃げないからゆっくり食べなよ!」
香苗は光也に向かって行儀悪く箸を向け、自信満々に言った。
「いや、逃げた!今日の昼ご飯は私から逃げてったの!社員食堂の日替わり定食330円は逃げてった!」
しかも運の悪いことに今日のメニューは香苗の好物の和風ハンバーク定食だったのだ。
食べ物の恨みは食べ物で晴らす。
香苗の信条でもある。
……またの名を食い意地が張ってるとも言うが。
「どうせ香苗さんが仕事してて、食べ逃しただけでしょうが」
図星を指され香苗がごほっと咳き込む。
空腹に脳を支配されていない分、光也のほうが思考能力はまともだ。
「それに香苗さんはご飯大盛りだからプラス50円で、380円でしょう」
更に余計なひと言が付け加えられる。