BRACK☆JACK~序章~
「情報はいただいたんだがな。引き際がちょっと、な」
エイジは右手で頭を掻き毟る。
苦虫を噛み潰したようなその表情に、ミサトは首を傾げた。
「ロンと会食するヤクザのボスが…ホモだったんだよ」
「……は!?」
「料亭でいきなり俺の太ももを触ってきやがって…カッとなってつい…」
あぁ、そう言う事情なら仕方ないわね、とミサトは妙に納得する。
「で、殺したの?」
「いや、顔面に蹴り入れてきただけだからな。死にはしないさ。鼻の骨くらいいってるかもだけどな」
「そう」
「あんたとしては、ロンのほうを殺して欲しかったとか?」
ミサトの顔を覗きこんで、エイジは言った。
恋人同士のように振舞ってはいるが、会話の内容はそれとは程遠かった。
質問には答えずに、ミサトは少し笑って話題を変えた。
「さっき、俺達、って言ったわよね?」
「あァ。逃げる時相棒てはぐれちまってさ。どっかの居酒屋で飲んでるかなと思って探してたんだけど…」
だから、あぁやってあちこちの居酒屋を覗いていたのか 。
「なんで居酒屋なのよ」
「金がねェから」
「あ、そ…」
まだ、後ろの気配は消える様子はない。
「どうすんのよ、あれ。だんだん増えているような気がするんですけどね」
「さぁて、どうすっかねェ…後は飛行機に乗るだけでいいんだがな…。アイツも拾っていかなきゃならねェし」
エイジは一人でぶつぶつ言っている。
「あたしも困るのよ、巻き込まれたりするのは。自分で何とかしなさいよ?」
「えぇ~…助けてくれないんですかぁ…?」
エイジはうるうると目をうるませて、お願いのポーズでこっちを見る。
冗談じゃないわよ、とミサトは肩にまわされた手を振りほどこうとして…はたと気付いた。
ジャケットに隠れていて分からなかったが、その左腕からは、うっすらと血が滲んでいた。
「あんた…怪我してんの?」
「あァ、逃げる時ちょっと、な」
エイジは苦笑する。