BRACK☆JACK~序章~
「…どうして、その名を…?」
グラスをテーブルに置こうとした手が、小刻みに震えている。
そんな動揺を隠せないミサトをよそに、エイジは変わらない淡々とした口調で言った。
「世界的に暗躍する、警察でもない、マフィアでもない組織…そこに属する人間は、全世界でも指折りのスナイパ ー達だというからな。例えば、500m先から確実に一人の人間の頭を打ち抜けるようなね」
「………」
「裏の世界に関わる人間なら、一度はその組織の噂くらいは聞いてるものさ」
エイジは、真正面からミサトを見つめる。
そして、エイジの煙草に手を伸ばすミサトに、ライターで火を点けてやり。
「そんでよ、その組織が絶えず超優秀なスナイパーを抱えていられるのは、失敗=死を意味するからだ、って噂も聞いてる」
「…噂は、間違ってないわ」
ミサトは煙を吐き出して言った。
「付け加えるとすると、組織は死ななきゃ抜けられないって事ね」
「ミサト…」
エイジは、辛そうに言った。
「じゃあどうして俺のところに戻ってきたりした? それだけリスクは大きくなる…」
「次のターゲットはロンよ。明朝7時、あのホテルからヤツが出かける前に仕留める。でも安心して、エイジとエイジの相棒は、ちゃんと空港まで辿り着けるように手配してあるから」
「ちょっと待てよ…」
何故か、頭痛がする。
エイジはこめかみを押さえながら、ミサトが考えていることを漠然と感じて、焦る。
「任務のことは秘密厳守だ…まさか、ミサト…」
「今日はゆっくりここで休むといいわ…明日になれば、部下がここに来るから。そしたら、空港へ」
「誰もそんなこと言ってねェだろ…なんで自分の身の危険を犯してまで、俺を助けたりしたのかって…聞いてんだ」
頭痛は目眩に変わり、エイジはソファの背もたれにしがみつく。
そうでもしないと、今すぐにでも倒れてしまいそうだった。