BRACK☆JACK~序章~
☆ ☆ ☆
「ま、一度は死を覚悟したんだが、その間際で急所を自分から外したんだろうな…」
ミサトのマンション近くの焼き鳥屋。
その店の地下にある一室は、完璧とまではいかないが簡単な手術ができるくらいの医療設備は整っていた。
「死ぬ間際でも、心のどこかでは生きたいと願っていた…。変わったな、ミサトは」
手を洗いながら、店主は一人、呟く。
壁際で腕を組みながら立つエイジは、黙ってその店主の言葉を聞いていた。
「あんた…噂は聞いてたよ。今来日してる麻薬組織の会合で、ヤクザに何かやらかしたんだってな」
「されたのはこっちの方だぜ…しっかし、耳が早ェんだな 」
「ここは“そういう”店さ。そしてこの子は、任務に失敗したんだね?」
店主は、麻酔で眠ったままのミサトを見つめる。
「麻酔が覚めたら、逃がしてやらなきゃな…。この子はこんな所で終わるような子じゃない」
「ずいぶん入れ込んでるみてェだな。まさかとは思うが、 惚れてんのか?」
エイジの言葉に、店主は声をあげて笑う。
「そんな言い回しを聞いていると、ガキと一緒だなぁ。好きな女の子を取られまいとして必死なガキと、な」
「なっ…!?」
エイジはそんな店主に何か言い返そうとするが、今この状況では、何を言っても墓穴を掘る結果になりそうで、ぐっと言葉を飲み込む。
そんなエイジを見て、店主はまた大笑いして。
「安心しろ、ミサトは、俺にとっちゃ姪っ子みたいなもんだよ」
「何が安心だ、このオヤジはよ」
「お前さん、ミサトの麻酔が醒めるまでここにいる時間はあるか?」
「まァな。たった一人を待たせておけばいいだけの話だ」
そうか、と言って店主は、焼き鳥の仕込みがあるからと部屋を出ていく。
普通の人間よりも体力があるはずだから、麻酔が醒めるのにそんなに時間はかからないだろう、と言い残して。