BRACK☆JACK~序章~
 店主が部屋を出て行った後、エイジはベッドの横に座った。



「死んだら終わりだ。そうだろ、ミサト…」



 エイジは眠ったままのミサトの前髪をそっと撫でる。



「何があっても、生きなきゃならねェ…。じゃねェと、もう二度と偶然に出会えなくなるぜ。こんな素敵な偶然なら、何度でも大歓迎なんだけどな…」



 小さく呟きながら、エイジはずっとミサトの頭を撫でていた。




☆ ☆ ☆




 ミサトが目を覚ましたのは、それから二時間後だった。



「エイジ…」

「気分はどうだ、お姫様?」



 おどけてみせるエイジに、ミサトは笑顔を浮かべる。



「身体は最悪、でも…気持ちは…ったより悪くないわね…」

「それなら結構」



 エイジの手は、ミサトの頭に乗せられたままだった。

 どおりで、何だか心地いい夢を見ていた訳だ、とミサトは思う。

 こんな気持ちは、生まれて初めてのような気がする。

 そして、ミサトはベッドの横に置かれた飛行機のチケットに気が付く。



「これか? 二人分の航空チケットと、日本脱出その他諸々セット。あのエロオヤジが用意してくれたんだ。しっかし、得体の知れないオヤジだな、あいつ」

「あたしも、よく知らないのよ。だけど、何かとお世話になってるから…」

「あァ、そうだな」



 そこで、暫く会話が途切れた。



「エイジ…」

「……ん?」

「あたしも、ほとぼりが冷めたら、この国を出るわ。だから…」



 ミサトは少し、痛そうに顔をしかめた。

 そして、大きく深呼吸をして。



「もう、行って?」



 やっと紡ぎだした言葉が苦しそうなのは、胸の痛みだけが理由ではなかった。

 返事の変わりに、エイジはずっとミサトの前髪を撫でていて。

 一緒に来るか、という言葉は、そう簡単に言える事ではなかった。

 ミサトが生きていると分かれば、組織は任務に失敗したミサトを、生かしておいてはくれないだろう。

 それに、エイジは『ホン・チャンヤー』という世界的に 暗躍する組織に追われている。

 冷静に判断すれば、今は一緒にいない方が最良の選択だということを、二人とも理解していた。
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