今夜 君をさらいにいく【完】
昼と夜の顔
少し明るめの口紅を引き、その上からグロスをたっぷり塗りたぐる。
ティッシュでテカッたお肌を念入りに拭き、ファンデーションを厚めにかぶせ、鏡で乱れた髪を整えた。
今日は何度この行為を繰り返しただろう。
週末は特に忙しい。
化粧も直す暇もないほど次々に客はやってくるが、それでも私、桜井安奈(さくらいあんな)は休憩の時間さえも無駄にはしなかった。
いくら時間がなくてもメイクだけはきちんとする。
これが私のポリシーだ。
「サナさん5番指名!30分ね」
女の子が6.7人ほど待機しているこの部屋に、従業員が呼びに来る。
“サナ”とは私の源氏名だ。
そう、ここは都内の繁華街にあるセクシーキャバクラ【セクキャバ】だ。
セクキャバとは、キャバクラよりも過激なサービスをするお店で、店内は半個室が20室ほど
ある。
お酒を作って飲ませて飲んで、楽しいお話しをして。
そこまでは何ら変わりない普通の飲み屋。
しかしその後、おさわりタイムへと変わる。
それは客次第なので、最初から最後まで触ってくる人もいれば、最初から最後まで話で終わる人もいる。
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