今夜 君をさらいにいく【完】
黒崎さんがふっと笑った。
「どうしたんですか?」
「・・・いや。牛丼食ってる時も思ったが・・・お前は食べてる時が一番幸せそうだな」
「え!?」
そんなに幸せそうな顔をしていたんだろうか。
・・・でもそうかもしれない。黒崎さんと食べるご飯は一段と美味しく感じられるから。
「朝は別々に行くか」
その言葉に、私は顔を上げた。
「それって・・・私達の事、会社にバレたらまずいって事ですか・・・?」
「いや、周りがうるさいだろ。そういうのでいちいち冷やかされたりしたくないしな」
そうか。確かに黒崎さんは冷やかされたり騒がれたりするのが嫌いだ。私は嬉しいけど。
好きな人と結ばれたら、やっぱりみんなに祝ってほしいし、つい言いたくなってしまう。
でもそのくらい我慢しなきゃ。
黒崎さんとこうやって一緒にいられるのだから。
今はこの幸せを噛みしめていよう。
この時の私はまだ知らなかった。
二人には大きな試練が待ち受けているという事を・・・