今夜 君をさらいにいく【完】
恋人
黒崎さんは普段よりも20分ほど早めに家を出た。
そして私もしばらくしてからマンションを出る。一応辺りを見回してから外に出た。
こんな事しなくても、堂々と二人で会社に行ける日が来ればいいのに・・・なんて思いながら。
センターの入口でICカードをバッグから取り出そうとした瞬間、後ろから誰かに抱きつかれた。
「きゃっ!?」
振り返ると、その正体は三条君だった。
「おっはよーございますっ」
朝からテンションが高い。「おはよう」と笑って返すと、彼の後方から黒崎さんが歩いてくるのが見えた。
ドキッと心臓が飛び跳ねる。
黒崎さんは下を向いていて表情がよく見えない。三条君に抱きつかれたのを見られていないことを願う。
「あ、おはようございます・・・」
私の言葉に、三条君も振り返り頭を下げている。
しかしそんな挨拶もスルーされ、黒崎さんは私達の前で立ち止まり、
「三条、会社でそういう下品な行動は慎め」
と、三条君の耳元でつぶやいた。物凄く鋭い目つきで睨みつけている。
やっぱり見られてた・・・
「あの!・・・」
話しかけようとしたが、黒崎さんは一切こちらを見ることなく、センターの中へ入っていった。
さっきまで一緒に寝て、一緒にご飯食べて・・・あの優しかった黒崎さんはどこへ!?
まるで別人のようだった。