今夜 君をさらいにいく【完】
「・・・こっわー!俺って完璧嫌われてますよねぇ・・・やっぱあの居酒屋でのこと根に持ってんのかなぁ」
両手で顔を抑えている三条君が引きつった笑顔を見せている。
私は黒崎さんの冷たい表情が頭から離れなかった。
いくら内緒にしてるといっても、前のように冷たい態度なのが腑に落ちなかった。これでは付き合う前と同じだ。
少しくらい優しくしてくれたって・・・
「どーしたんすか?」
三条君が手のひらを私の目の前でヒラヒラさせている。
「ううん、なんでもない!行こう!」
私達はセンターの中へ入った。
人間は欲張りな生き物だ。欲しい物が手に入ると更にもっと良いものが欲しくなる。
黒崎さんと付き合えただけでも幸せなのに、私はすでにそれ以上の事を望んでいる。
この日は一度も目が合うことはなかった。
私は何度彼を見つめただろう。
オペレーターと話している時の真剣な表情。何か考え事をしているときのペンを回す癖、コーヒーを飲む時のしぐさ。その一つ一つ、全てが愛しい。
昨夜私はこの人に抱かれた。
思い出すだけで体が熱くなってくる。
あの時の幸福感が甦ってくる。
その時、黒崎さんの視線が私に向けられた。