今夜 君をさらいにいく【完】


「・・・こっわー!俺って完璧嫌われてますよねぇ・・・やっぱあの居酒屋でのこと根に持ってんのかなぁ」



両手で顔を抑えている三条君が引きつった笑顔を見せている。



私は黒崎さんの冷たい表情が頭から離れなかった。

いくら内緒にしてるといっても、前のように冷たい態度なのが腑に落ちなかった。これでは付き合う前と同じだ。

少しくらい優しくしてくれたって・・・




「どーしたんすか?」



三条君が手のひらを私の目の前でヒラヒラさせている。



「ううん、なんでもない!行こう!」



私達はセンターの中へ入った。





人間は欲張りな生き物だ。欲しい物が手に入ると更にもっと良いものが欲しくなる。

黒崎さんと付き合えただけでも幸せなのに、私はすでにそれ以上の事を望んでいる。



この日は一度も目が合うことはなかった。

私は何度彼を見つめただろう。



オペレーターと話している時の真剣な表情。何か考え事をしているときのペンを回す癖、コーヒーを飲む時のしぐさ。その一つ一つ、全てが愛しい。

昨夜私はこの人に抱かれた。


思い出すだけで体が熱くなってくる。


あの時の幸福感が甦ってくる。



その時、黒崎さんの視線が私に向けられた。



< 107 / 234 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop