今夜 君をさらいにいく【完】
「・・・はい」
わかってる。私は何か考え事をしてしまうと、仕事が疎かになってしまう阿呆だ。
現にこの前もそれで失敗した。
だけど・・・
黒崎さんと恋人同士になれたという夢のような現実に、今は浸っていたいのだ。
「・・・それから、桜井は隙が多い」
「え?」
黒崎さんの手の甲が、私の頬に触れる。そして彼は私をじっと見据えた。
「三条に触られてんなよ」
「あ・・・す、すみません!これから気を付けま・・・」
最後まで言い終わらないうちに、黒崎さんの唇で口を塞がれた。
少し乱暴で、黒崎さんらしくない。
もしかして怒っているのかもしれない。
誰もいない静かな会議室に、小さく鳴り響く音が、私の体を更にとろけさせる。
「今度他の奴に触られたらお仕置き・・・だからな」
フッと笑い、そっと体を離した。
「え!?」
私の顔が真っ赤になってたのか、黒崎さんが口に手を添えて笑いだす。
「ま、仕事頑張れよ」
そう言って会議室のドアを開けた。