今夜 君をさらいにいく【完】
ずるい。
こんな事されたら余計に集中できない。
黒崎さんの方を見ても、何ら変わりない様子で他の人と話をしている。私はこんなにもドキドキしてしまっているのに。
それから何回か目が合い、その度に黒崎さんは意地悪い笑みを見せてきた。
私の心臓はその度に大きく跳ね上がる。
その日の夜、私は店長に店を辞めたい事を伝えた。
考え直してほしいと何度か言われたが、私の固い決意に店長もしぶしぶ承諾してくれた。
「サナさん辞めるならマリナもやめようかなぁ~」
待機室で大きな欠伸をしながら背伸びをしているマリナ。
「うん、マリナも早く風俗から卒業しようよ」
「そうですよねぇ、てかサナさん次のお店決まってるんですか?」
私はお水の求人雑誌をいくつか眺めていた。
そんなに店も大きくなくて、時給もそこそこ良いお店を探している。
「それがねぇ、悩んでるの」
「じゃぁマリナの知り合いの店で働きませんか!?知り合いっていえば時給も高くしてくれるはずですよ!ってかマリナも、そこと掛け持ちしようかなぁ」
「ホント!?頼める?」
マリナは“うんうん”と大きく頷くと、さっそくその知り合いに電話してくれていた。