今夜 君をさらいにいく【完】
ガチャ・・・
「サナ、3番指名!飯田さん来てるよ」
店長の言葉に心臓がドクンと音を立てた。
飯田さんには朝メールをした。
“お店を辞めることにしました”と。
そして彼にもちゃんと話さなければいけない。
私は意を決して3番のカーテンを開けた。
そこにはいつもと変わらない笑顔があった。この前言われた事を思い出して、胸が締め付けられる。
「サナちゃん、心配で来てしまったよ」
「すみません、ありがとうございます・・・」
隣に座り、焼酎を作る。その様子を、飯田さんはじっと見つめていた。
そして私からグラスを受け取ると、「ありがとう」と言って一口飲み、静かに口を開いた。
「お店はいつ辞めるの?」
「今月いっぱいです。突然驚かせてしまってすみません」
「いや、そろそろ辞めるのかなぁとは思ってたよ」
「え?」
テーブルの小さなキャンドルから、ゆっくりと私の顔へと視線を移す。
「好きな人いるんでしょ?」
穏やかな表情。飯田さんは私が今まで言いだせなかった事に気付いていた。
気付いていながら、しょっちゅうお店に来たり、同伴してくれたりしていたんだ。
私はゆっくりと頷いた。