今夜 君をさらいにいく【完】
―――AM8時45分
昨日みたいな涙はもう流さない。私はいつだって強くて、みんなに頼られている女なのよ。
自分のデスクに向かう途中、桜井安奈が私の視界の片隅に入ってきた。
眠いのか、ぼーっとして座っている。
さぞかし昨夜は楽しかったでしょう。
でもね、それも時間の問題なのよ。
私の視線に気がついた桜井さんは、立ちあがり、側に寄ってきた。
「あの・・・お、おはようございますっ」
いつもならわざわざこんな挨拶しにこないのに、よほど口止めしておきたいのだろうか。
誰が周りに言うもんですか。祝福なんてさせない。
「おはよう。・・・昨日の事は誰にも言わないから安心して頂戴」
「あ・・・はい、すみませんっ」
私は満面の笑みを作った。
それを見た桜井さんが安堵の表情を見せて、小走りに自分の席へ戻っていく。
バッカみたい。
調子にのっていられるのも今のうちだから。