今夜 君をさらいにいく【完】
「俺はあいつに本気なんだ。幸せにしてやりたいと思ってる。だから余計な心配、かけさせたくない」
持っていた携帯が手からするりと落ちていく。
唇が震えているのがわかった。
「れ・・・いじ・・・この前言ってたじゃない・・・恋愛は今の俺に必要ないって・・・なのにどうして急に・・・」
「そうだな・・・俺はあの時自分に嘘をついていたのかもしれない。おかしいだろ?自分でもそれに気付かなかったんだよ」
「・・・・・・」
何を言っているのか。
呆然とする私に、玲人はポンと頭をたたき、小さく「ごめんな・・・」と言って、去っていった。
どうして謝るの?
謝られたら、もう全てが終わりみたいじゃない。
告白する前に振られたみたいじゃない。
私はしばらくその場を動けないでいた。
サンドウィッチもコーヒーも何もかも喉を通らない。
その日はいつにもまして坦々と仕事をこなした。仕事をしている間は余計な事を考えないですむ。お客様と話して、笑って、誤って。
ただ・・・
たまに玲人が視界に入ると胸が苦しくなった。
そしてあの子を見ると、憎しみがこみ上げてくる。
あの子に負けたの?
何が劣っていたの?
玲人を思う気持ちはあの子より絶対上回っていたはずなのに。