今夜 君をさらいにいく【完】
その日はなかなか眠れなかった。アユムの事など、とうに頭から消えていた。
やっぱり私はまだ玲人を忘れられていない。
アユムと出会ってから、玲人の事を考えないようにしていただけだ。こうして少しでもチャンスがあれば、私の方に振り向かせようとする気持ちがわいてくる。
明け方になってようやく眠りにつくことができた。
少し見た夢は、幼い頃玲人に遊んでもらっている夢だった。いつも隣にいれて、幸せいっぱいだったあの頃。誰にも渡したくないと思っていた。
この手は私だけのものなのだと――――――
翌日、私はいつもより早めに出社することにした。2、3時間ほどしか寝ていないため、肌の調子が良くない。普段ならこんな日は念入りにスキンケアをし、化粧にも時間をかけた。
しかし今日はそんな事などどうでもよかった。
玲人にいつ話そうか。
そればかりを考えていた。
携帯を、見るとアユムからメールが入っていた。
“おはよう。さっき帰ってきたよ。昨日は来てくれてありがとう。また近々連絡するね。大好きだよ”
私は今まで何をやっていたのだろう。
こんなにも玲人のことが忘れられていなかった。なのに余計な事に首を突っ込んで・・・
しかしそのおかげで桜井さんの秘密を知ることができたのだ。
簡単にメールの返信を済ませると、私は勢いよくマンションのドアを開けた。