今夜 君をさらいにいく【完】
センターに入り、出勤表を確認する。桜井さんは休みだった。
ちょうどいい。
その時、玲人がセンターに入ってくるのが見えた。
「おはようっ」
「おう、早いな」
玲人は私に笑顔を向けてから、自分のデスクに座った。
最近玲人はよく笑うようになった。
“それは桜井さんと付き合うようになってからだ”
などとは思いたくもない。
お昼が過ぎ、帰宅時間が近づいてくるにつれ、緊張が増していく。今日の帰りに玲人に告げると決めていた。
彼はどんな表情をするだろう。怒るだろうか、それとも・・・
桜井さんに本気だと言っていた玲人は悔しいくらいに真剣だった。
傷つけてしまうかもしれない。
・・・それでも私は玲人をあの子に渡したくない。
18時になり、オペレーターの子達が次々に帰っていく。
玲人はまだ自分のデスクに座っていた。
私は給湯室でコーヒーを入れて玲人のデスクに置いた。
「悪いな。・・・お前も残業か?」
「ええ、少しね」
一度私のほうに視線を向けてから再度パソコンに目を向けた。
玲人の整った凛々しい横顔、男らしい体系に大きな手。これが私の物ではないと思った瞬間、いてもたってもいられなくなり、私は心の準備もまだできていないのに言葉を発していた。
「ねぇ、桜井さんって夜のお仕事してるの?」