今夜 君をさらいにいく【完】
一瞬玲人の手が止まった。そしてゆっくりと私のほうに体を向ける。その顔はさっきまでの穏やかな表情とは一転、厳しい表情に変わっていた。
「誰に聞いた」
あまり驚いている様子はない。・・・玲人は知っていたのか。
「ちょっと桜井さんの知り合いの人に聞いたの。夜の仕事をしてるって・・・」
「・・・・・・」
どこかバツ悪そうに私から視線を逸らし、マグカップに手を伸ばした。
いつの間にかセンターは私と玲人の二人だけになっていた。
鼓動が早くなり、手に汗がにじむ。
「この事、他のやつには言ってないよな?」
「ええ・・・玲人は知っていたの!?」
「ああ・・・付き合う前から知ってた」
信じられない。交際以前から知っていたのにどうして付き合おうと思ったのか。
その言葉が出かけた瞬間、玲人が口を開いた。
「あいつは家庭の事情があってな・・・仕方なく夜働いてるんだ」
「だ、だからって!夜の仕事を選ぶなんて!他に方法はいくらでもあったはずよ!」
「声大きい」
玲人は嫌そうな顔で私を見つめた。
どうしてあの子をかばうのか。家庭の事情なんて知ったことではない。
好きだから・・・?
それって単なる同情なのではないのか。気づかなかったが、玲人はそういう子を放っておけないたちなのかもしれない。