今夜 君をさらいにいく【完】
私の笑顔を見て、少しほっとしていたが、飯田さんは俯いて更に落ち込んでいる様子だった。
「駄目だな・・・」
「え?」
「やっぱりサナちゃんが好きだ。諦められないわ・・・」
「飯田さん・・・」
すると今度は飛び切りの笑顔を見せて言った。
「ごめんごめん!こんな事言われても困るよなっよし、じゃぁ、めし食いに行こう!」
私の手を引いて人ごみをかき分けていく。
飯田さんの気持ちは嬉しい。
でも私はそれに応えることはできない。私の心は申し訳ない気持ちと、黒崎さんに対する罪悪感でいっぱいになった。
お店からそれほど遠くない場所にある、高級な寿司屋を出た頃には、雨が降り出していた。
やっぱり洗濯物を外に干してこなくてよかった。
飯田さんは傘を広げて私を濡れないようにと気を遣って歩いてくれた。自分は半分くらい濡れちゃってるのに、私がそれを指摘しても“大丈夫だから気にしないで”と言う。
本当にこの人は優しさの塊でできているのかもしれない。