今夜 君をさらいにいく【完】
藤本さんが黒崎さんの後を追いかけていく。
私はじっとその後ろ姿を見つめていた。
「サナちゃん・・・大丈夫?」
飯田さんがそっと私の顔を覗き込んだ。
罰が当たったのかもしれない。こんな店なんかさっさとやめていればよかった。
飯田さんに曖昧な態度なんかとってないで早く振っちゃえばよかった。
でも、飯田さんが本気で私を心配そうに見つめてくる顔を見ると、そんな事は絶対にできないと思ってしまう。
我慢していた涙が溢れてきてしまった。
そんな私を飯田さんは雨の中、何も言わず抱きしめてくれた。
暖かくて少しほっとしてしまう。余計に涙が止まらなくなった。