今夜 君をさらいにいく【完】
翌日、腫れた目はなんとかアイシャドーで隠すことができた。おかげでいつもより濃くなってしまったけれど。
センターに入ると、黒崎さんも藤本さんもすでに出勤していた。二人とも何事もなかったかのようにパソコンに向かっている。
朝のミーティングの時も、黒崎さんは淡々とみんなに話をしていた。辛いと思っているのは私だけなのかもしれない。黒崎さんはあんなことがあっても平気で仕事ができる。
私と別れても、きっと今みたいに平然と仕事をこなすのだろう。
休憩中、お手洗いで藤本さんと会ってしまった。
二人と鉢合わせしないようにと気を付けていたつもりだったが・・・
「お、お疲れ様です・・・」
私がか細い声で挨拶すると、藤本さんは鏡越しに私を見た。
「あら、嘘つきさん。玲人を騙し続けていた気分はどう?」
赤いグロスをポーチに入れて、藤本さんは振り向いた。
「騙していたわけじゃないですっ・・・」
「恋人に嘘ついてまでああいう店で働いてたんでしょ!?騙していたんじゃない!玲人は普通の飲み屋で働いてるとしか思っていなかったわよ!?」
「藤本さん・・・知ってたんですか?私があの店で働いてるって・・・」
そう言った途端、藤本さんが目線を逸らした。