今夜 君をさらいにいく【完】
「し、知らなかったわよ。たまたまあそこを通りかかったってだけで・・・」
嘘だ。
あのビルは風俗店以外にもスナックや普通の飲み屋も入っているのに、黒崎さんははっきりとあのピンクの看板を差した。
それに・・・この前ホストクラブで藤本さんと会った事も気にかかっていた。あの後戻ってきたアユムに問いかけても“ちょっとした知り合い”の一点張りだった。
絶対にアユムが言ったに違いない。
・・・でもここで藤本さんが知ってたか知らなかったかなんて言い争っていても、どうしようもない。
昨日の出来事が消えるわけでもないし。
「そうですか・・・」
すると藤本さんは片方の口角だけ上げて不敵な笑みを浮かべた。
「昨日玲人と寝たわよ」
「・・・え?」
「あの後落ち込んでいるようだったから慰めていたらね、急に抱きしめられて。玲人のマンションに行ったわ」
うそ・・・この女はまた嘘をついてるに違いない。
「嘘ですよね・・・」
「あら、私が嘘ついてるとでも?玲人の部屋、殺風景でしょう、生活感がないのよね。まぁそこは玲人らしいけど」
ふふっと笑い出す藤本さん。心臓が締め付けられる。