今夜 君をさらいにいく【完】
氷雨―Side玲人―
桜井に似た女が遠くから見知らぬ男と寄り添って歩いてくる。
小さくて細い体に、少し甲高い笑い声を俺は間違えたりしない。
桜井だ。
二人は俺と恵理香の前で立ち止まった。
俺達の顔を見るなり、ひどく怯えた表情をした桜井。
風俗店で働いていたなんて知らなかった。
ふと名前を呼ばれ、隣にいた男に目を向けると、そこには数年ぶりに見る懐かしい顔があった。
飯田先輩。
大学時代、サークルで一緒だった先輩だ。俺は当時スキースノボーサークルに所属していて、飯田先輩と色んな山に滑りに行った。
優しく、明るく、誰にでも好かれるような人で、俺も仲良くさせてもらっていた。
卒業してからずっと会ってなかったので、6年ぶりの再会となる。
それがまさかこんな形で再会することになるとは。
飯田先輩が、桜井を“サナ”と呼ぶ。
きっと源氏名だろう、だけど俺はそんな桜井を知らない。
「く、黒崎さんっ話がっ・・・」
「話ってなんだ。ここで働いているということか」
俺は桜井の話を遮断した。