今夜 君をさらいにいく【完】
しとしとと冷たい雨はやむ気配がなかった。
歌舞伎町はこれから華やかな夜を迎え入れる準備をしていた。
俺はその中を立ち止まることなく、足早に突き進む。
「玲人!」
後ろから恵理香が呼び止めた。
「・・・まさか桜井さんが男の人と一緒に出勤するなんて・・・私も驚いてるわ。でもあんな場面に出くわしてしまったのも私の責任よね・・・本当にごめんなさい」
「・・・恵理香のせいじゃない。気にするな」
俺は振り返ることなく答えた。
「今日・・・玲人のマンションに行ってもいいかしら?」
「・・・悪いけど」
「別に変な意味じゃないの!ほら、こんな時は誰かと食事でもしたらいいんじゃないかなと思って・・・外で食べる気分にもなれないでしょ?だったら何か買って帰って、一緒に食べない?」
幼馴染だからといって恵理香をマンションに連れて行ったことは今まで一度もない。
今は一人でいたい。飯だって食べる気になれるわけがない。
「いや、やめておくよ。気を遣ってくれてどーもな」
「・・・私じゃ頼りない?」
恵理香がひどく震えた声を出した。今まで聞いたことがないくらいか細く、小さい声だった。