今夜 君をさらいにいく【完】
「玲人、ちょっといいかしら?」
藤本さんに呼ばれ、部屋を出ていってしまった。
私は堪え切れず、泣いてしまった。
何かかぷつりと切れたように、とめどなく溢れ出て来る涙。
母が亡くなってから、こんなに泣いた事はなかった。
父親がいなくなっても、あの夜の仕事で嫌な事されても、泣く事なんてなかったのに。
いつも綾がいるから頑張ろうって。自分が泣いた所で誰も助けてくれないんだからって思うと泣いてもしょうがないと思っていた。
昼休み、泣き腫らした目を隠しながら食道へ行った。
ここの食道は約400席あり、日替わりでビュッフェバイキングなどが置かれている。
誰にも見つからない様にすばやくお弁当を食べて、すばやく休憩室に行こうと思っていた。
「桜井さんっ」
三条君が目の前でカレーうどんを持ちながら満面の笑みを浮かべている。
こういう時に限って見つかってしまうものだ。
「あ、三条君・・・」
「・・・あれー?」
元気ない私に気付き、顔を覗きこんでくる。
もー本当にやめてー!!!と心の中で叫ぶ私。