今夜 君をさらいにいく【完】
「ワインでいいか?」
「ええ、少しいただくわ」
ワインセラーから白ワインを一本取り出し、恵理香のグラスに注ぐと、爽やかな果実の香りが周囲に漂った。
テーブルには、焼野菜のサラダ、海老とブロッコリーのサラダ、サーモンマリネ、ほうれん草とベーコンのキッシュ、鶏のピリ辛揚げなどが並んでいる。
どれも惣菜とは思えないほど味に深みがあって、こんな気分の時でも美味しく感じられた。
「どう?ここの惣菜美味しいでしょ?」
「ああ、うまいな。いつもここで買ってるのか?」
「ええ、たまにね、結構遅い時間までやってるから残業の時とか便利なのよ」
そう言い、ベーコンのキッシュをフォークとナイフで綺麗に切り分けて口に運んでいる。
恵理香はお嬢様だ。こういったマナーも小さい頃から教えられているのか、自然にできてる。
キッシュか。桜井が好物だったな。
きっとナイフなんか使わずにフォークだけで一気に食べてしまうだろう。そして美味しいものを食べると必ず満面の笑みを見せる。
俺はそのうまそうに食べる桜井の姿が好きだった。
「紅茶入れるわ」
飯を食べ終えると恵理香がそう言い、立ち上がった。
「・・・じゃあ頼む」
俺はリビングのソファーに腰を下ろした。