今夜 君をさらいにいく【完】
目をつむると、今日あった事が走馬灯のように思い出される。
すると、またあの何とも言えないイライラした感情が湧き上がってきた。
恵理香がテーブルに紅茶を置いた。そこからはカモミールのいい香りが漂っていた。
「ハーブティよ、さっき見つけて買ったの。これで気持ちも落ち着くと思うわ」
恵理香は笑顔で俺の隣に座った。
こいつは気が利く女だ。仕事もできるし美人だし。なのに今まで彼氏が出来たと言う事を聞いた事がない。早く良い男と幸せになってくれると俺も安心できるのだが。
「ずっと桜井さんの事考えてるでしょ?」
「・・・まぁ少し・・・な」
「私、許せないあの子が」
穏やかだった恵理香の目が急に鋭くなる。
「どうして玲人に嘘をついてまであんな仕事ができるのかしら。いくらお金が必要でも私は絶対無理だわ」
「あいつの家は本当に大変なんだよ。俺たちには想像もできないような苦労をしている」
「あら、私は苦労してないから気持ちがわからないとでも?」
「いや、そういうことを言ってるんじゃない」
「どんな苦労や事情があったにせよ、私は玲人に嘘をつくようなことだけはしたくないわ。それだけ桜井さんは玲人に心を許していなかったということじゃない。違う!?」