今夜 君をさらいにいく【完】
別れ
このお店に出勤するのも今日で最後となる。
嫌だ嫌だと思いながらも通った歌舞伎町。この約一年三か月は長いようであっという間に過ぎて行った。
私はいつものように開店前のお店のドアを開けた。すると、まだ薄暗い店内の奥から、店長と男性スタッフの小野君が大きな花束を持ってやってきた。
「サナ、今までご苦労様!」
色とりどりの綺麗な花束は、私の腕の中には収まりきれないほどの大きさだった。
「びっくりしましたー!すごく綺麗・・・ありがとうございますっ」
店長も小野君も私の笑顔に満足そうに頷く。
夜の世界の人間は怖い人ばかりだってみんな言うけれど、私の周りは良い人達ばかりで、恵まれていたなとつくづく感じる。右も左もわからない私に、一から丁寧に接客を教えてくれたのは店長だ。
入店当初の頃の事が頭に浮かび、少し泣けてきた。
「えー!泣いてんのかよ!?まだはえーだろ!」
そう言って私の頭を小突く店長。
そして次々に女の子達が出勤してきて、開店10分前にはマリナが待機室に入ってきた。