今夜 君をさらいにいく【完】
マリナ、どうしたんだろう。
後ろ髪を引かれながらも、私はリズミカルなBGMが流れている店内へと向かった。
この日は沢山の指名のお客さんが来てくれた。
皆「寂しい」だの「外でまた会えないか」だのと言いながら、私に花束やプレゼントをくれた。
最初は嫌だとばかり思っていたお客さんも、もう会えないとなると寂しくなるものだ。
待機室に戻る暇もなく次々にお客さんがやってくるので、あれから一度もマリナと会えずにいる。
あの状態で接客できるのだろうか。
23時を過ぎた頃、飯田さんが来てくれた。
少しほっとする。
「いやぁ、すごい人気だね!」
「お待たせして本当に申し訳ありません・・・」
「いや、大丈夫だよ。それよりずっと休んでないでしょ?ここでゆっくり休みな」
私は笑顔を向けると、急いで焼酎を作り始めた。
「最後だもんなぁ・・・会えて本当によかったよ」
最後・・・
そうか、飯田さんとも今日で最後になるのか。
私はマリナの知り合いのキャバクラで働く話を、白紙にしてもらっていた。風俗ではないが、夜の仕事には変わりない。
もう人に隠し事をすることも疲れた。