今夜 君をさらいにいく【完】
体は密着させてもこちらからは客のモノを一切触れはいけない。
それがよくてこのお店を選んだ。
内容的にはキャバクラとヘルスの間のような感じだ。
ポーチの中にライター、ハンカチ、名刺を突っ込み、15センチほどあるピンヒールを履く。待機室を出ると店内は明るく、軽快なジャズのBGMが流れていた。
受付に立っていた、ニコニコ顔の店長が私に耳打ちする。
「サナお疲れ。今からつくお客さん、ラブハントに載ってるサナちゃんのグラビア見て来たらしいからよろしくねっ」
ラブハントとは月に一度発行される風俗雑誌だ。
それに私はこの前グラビアとして載ったのだ。撮影は一時間もかからなかったが、たった数ページ載るだけで2万円の報酬があった。
「はいっ」と、私は元気よく店長に返事をし、5番の部屋へ向かう。
部屋といっても半個室なのでたった一畳ほどのスペースにテーブルと長椅子、そして周りはカーテンで囲まれている程度だ。
「失礼しまーす。お待たせしました」
目一杯の愛想笑いで5番テーブルのカーテンを開ける。
そこに座っていたのは、見た目が30代くらいのサラリーマンだった。