今夜 君をさらいにいく【完】
そこには顔色一つ変えずに私を見下ろしている黒崎さんがいた。
助けてくれたのはなんと黒崎さんだったのだ。
私はとっさに下を向いてしまった。
「・・・今日は腹鳴らないのか」
予想外な事を口にするものだから、私は驚いて顔を上げ、
「なっ、大丈夫です!」
と、勢いあまって少し大きな声で言ってしまった。
周囲の人が一斉に私を見る。
それに対して、フッと左の口角だけ上げて笑ってくる黒崎さんに、思わずどきっとした。
私に笑いかけてくれた――――――――
それだけでこんなにも嬉しいだなんて。
あっという間に8階についてしまい、私を含め4人が降りた。
黒崎さんはそのまま何も言わず、センターに向かって歩いていく。
さっき普通に話しかけてくれた。
こんなチャンスはめったにない。
気づいたら、黒崎さんのコートを後ろから引っ張っていた。
振り返った黒崎さんはとても驚いた顔をしている。
「あ、すみません・・・あの・・・今日少しお話できませんか・・・」
怖くて顔が見れない。