今夜 君をさらいにいく【完】
「それは違うわ」
そばにいた藤本さんが口を開いた。
「朝、仕事の事でどうしても見てもらいたい物があったの。家が近くだから寄っただけよ。それに・・・私達は幼馴染だからそういう関係にはならないわ」
皆が更にざわつく。
「黒崎さんが好きなのは・・・桜井さんよ」
そう言って私を見る藤本さん。
まさか藤本さんが助言してくれるなんて、思いもしなかった。
私と目が合うと、少し微笑んだ。
「さ!もういいでしょ?仕事の時間よ!」
藤本さんが皆を仕事に取り掛かるように促した。
私は小走りで藤本さんのデスクに向かった。
「藤本さん・・・ありがとうございました・・・」
彼女はパソコンに目を向けたまま、
「何が?私は真実を言っただけよ。嘘つくのは嫌いだから」
と言って、一瞬だけこちらに視線を移し、笑った。
それだけで、心の中に暖かいものが広がった。
藤本さんに、黒崎さんとのことを認めてもらえた―――――――
そんな気がした。
三条君の方を見ると、“良かったですね”と口パクで言って、ピースをしてきたので私もピースを返した。
デスクに戻ると、興奮状態の伊藤さんが詳しく話を聞かせてと飛びついてきた。