今夜 君をさらいにいく【完】
夕飯をすませ、私たちはソファに座り黒崎さんは新聞、私はTVを見ていた。
黒崎さんの隣でこんな風にゆっくり過ごすのは本当に久々で嬉しくなる。
あの時―――
黒崎さんが私を許してくれなかったら・・・今頃私はどうしていたんだろうか。
考えたくないけど、ふとそう思ってしまう。
「黒崎さん、今日みんなの前で私たちの事言っちゃいましたけど・・・大丈夫だったんですか・・・?」
黒崎さんは新聞から顔を上げた。それはとても柔らかな表情で。
「ああ。桜井となら別に何を言われてもいいと思ったんだ」
それはこの上ない嬉しい言葉。
胸が熱くなった。
「俺をこんな風に変えたのはお前だよ。多分お前の事なら俺は馬鹿にだってなれるのかもな」
フッと笑って私の肩を抱き寄せる。
そして私の額に黒崎さんの前髪がかかったと思った瞬間、私の唇が黒崎さんの温かい唇と重なった。
こんなに幸せでいいのだろうか。
私たちは色んな人達を傷つけてきた。
飯田さん、三条君、藤本さん――――
そのたびに迷い、自分の気持ちを押し殺すこともした。